新型コロナ時代、日本が世界に輸出できる新たなソフトパワーとは

                                                                                                   黄 文葦

 2019年12月8日、中国武漢で最初の新型コロナ感染例が確認された。これまでのところ、新型コロナ感染拡大に対する世界的な戦いは1年以上続いている。

2020年、世界の状況は急速に変化しており、最初は感染が最も緊迫した中国だが、後にウイルスとの戦いの「優等生」になりそうで、アメリカは「敗疫国」になってしまったが、日本は勝ち組でも負け組でもないようだ。  

さて、2021年、相変わらず新型コロナ時代との共存は続けるだろう。ウイルスに対抗するのに日本の強みは何だろうか。 日本の新型コロナ対策と感染拡大の事情は、欧米諸国や東アジア諸国とは異なる。新型コロナの対応について、日本は「脱亜」をしたが、「入欧」もしていなかった。日本は中国のような強硬な政策はとれないし、台湾や韓国のように民主主義制度を守りながら、素早く危機対応と行動規制を取ることもできないし、欧米のように急いでワクチンを導入することもできない…まさに、新型コロナ時代、日本は「脱亜」と「入欧」の間に徘徊しているようである。 

テレビで芸能人が新型コロナに感染したことで謝罪のコメントを発表した。それを観て、彼らはかわいそうだと思った。感染するのは、誰にも不本意なことである。でも感染者が家族と仕事の関係者に周りの人々に迷惑と心配をかけることは確かである。感染したら、粛々と謝る。ツイッターで見た物語だが、一人の新型コロナ患者が退院の際、医者さんに公共交通機関を利用しないと言われたので、二時間徒歩で帰宅ということ。絶対に他人に感染させないという思い、このような日本人の自律精神は感染拡大を抑えるパワーになるだろう。  

新型コロナの対応について、政府の政策には多くの欠点があると否められない。一日感染者が千人を超えても、政府はお手あげ。民衆の自助、自律に頼り続けるしかない。  

今年は、東日本大震災十周年。2014年、当方はかつてボランティア団体の人と一緒に福島に行った。その際、当地の方がよく「除染」という言葉を言われていたことを克明に覚えている。2020年、思わず世の中、多くの人々が一日中自分の手まで何回も「除菌」「除染」をしている。今の世界はあたかも十年前3・11直後の福島になっている。他の国より、日本はウイルスを撃退する心の構えはもっとできているはずだ。 自然災害の多い日本では、国民は自制心を持って冷静にウイルスに対処しているとみられる。

2020年前半は非常事態宣言の下、ステイホーム、後半は徐々に社会生活が通常に戻り、レストランやカフェには再び人が賑わい、電車はまたもや混雑している。ただ、以前と違って全員はマスクをしていて、しゃべらず、接触を避けようとしている。  

ところで、「自粛の空気」にもかかわらず、アニメ映画の「鬼滅の刃」が2020年末2日間で動員57万6000人、興収9億800万円をあげて、11週連続で1位に。累計では動員2404万人、興収324億円を突破して、遂に2001年に公開された「千と千尋の神隠し」の記録を抜いた。これは何かと考えさせられることがあった。

2020年に「不要不急」は流行語であったのが、生きるために最低限の空気、水、食料、睡眠を除けば、映画鑑賞は「不要不急」の中に入るべきだと考えるのが妥当なのではないだろうか。 しかし、日本人は相変わらず映画館に足を運ぶ。2020年末、交響曲第9番 (ベートーヴェン)は相変わらずコンサートホールに響き渡り、人々はマスクをしてクラッシック名曲を楽しむ。新型コロナ時代でも、「文化」は決して「無駄なもの」ではないと証明してくれた。映画・音楽などはいつまでも人間の生きる糧になっている。民主主義社会の中、自由と人間の心の豊かさは健在である。 

日本人は自然を尊重し、ウイルスとの共存意識を持っているようである。日本人の衛生習慣は世界中に注目されているに違いない。日本人は感染症に対処する際の最大の利点は、昔からマスクをする習慣があり、もともと社会的な距離を保つこと、握手やハグをしないこと、不必要な身体的接触をしないこと。 

当方は日本に来たばかり際、風邪をひいたので病院で診査を受けて、医者さんが風邪薬の以外に、うがい薬をも処方されるのを新鮮に覚えた。20年前の中国では、あまりうがい薬の概念はなかった。  

2020年、日本全国の小売店でうがい薬が前年比で約50倍売れたことが市場調査会社インテージの調査で判明した。世界中の人が日本人のように清潔感を保ち、4時間ごとにうがいをすれば、新型コロナウイルスによる感染は大幅に減少ではないか、と考えられる。 

いうまでもなく世界中多くの人が日本の清潔なトイレに憧れる。中国人観光客が日本の温水洗浄便座を爆買いことは記憶に新しい。「トイレの神様」が大勢の中国人を魅了させた。ある友人が日本旅行に来て、日本で雑巾を売られていること、小学生が学校で雑巾を使うことに驚いたという。中国では、古い服とか、古いタオルとか、掃除に再利用する。掃除専用の白い雑巾には日本人の掃除の極意が込められているだろう。  

日本のソフトパワーと言えば、漫画、アニメ、大衆音楽などを思い浮かべる。新型コロナ時代、日本人の清潔感をも含めるライフスタイルをソフトパワーに加えて輸出すればと思う。社交距離、手作りマスク、うがい薬、ハンドジェル、雑巾…それらはソフトパワーの具体像である。

 2021年、東京五輪が開催されるのか、菅政権が2021年を生き残れるのかなど、日本がどこへ向かうのかは気になるところであり、見通すことはできない。しかし、その曖昧さ、正解のなさは日本の特徴であり、私たちは正解も透明性もない不透明な国で生活を続ける。未来が見えないからこそ、好奇心や希望が抱かれているのかもしれない。  

2021年、日本の清潔感という「国柄」を世界に示すことができたらと祈念する。 

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍