中国では、どのような虫の音が好まれるのですか?

【質問】 

私は夏から秋にかけて、アブラゼミやヒグラシ、また、コオロギやスズムシ……と、さまざまな虫たちが奏でる音楽を楽しみます。中国では、どのような虫の音が好まれるのですか? 

 【回答】 

虫の音と言うと、幼い頃の記憶がよみがえります。山の中の小学校に住んでいた子供の頃、夏になるとカエルとセミ、コオロギを中心に様々な虫の合唱が聞こえてきました。筆者はカエルとセミの音が好みます。セミは「蝉」、「知了」ともいいます。今、田舎も都市化に進んであり、虫の居場所はどこにあるのか、気になります。 

ただし、中国は広いので、南と北では、虫が同じではないかもしれませんし、音も違うかもしれませんので、虫に訛りがあるかどうかはわかりません(笑)。中国の知人数人に、夏の虫の音について覚えていることを聞いてみました。 キリギリスとタイワンクツワムシの音が印象的だったと言われました。タイワンクツワムシの中国語名は「紡織娘」で、その音は、まるで機械で織っているように聞こえます。 

中国の古詩には、夏の虫の音を表現したものが多くありますが、その中でも最も多く表現されているのが「蝉」です。 唐の詩人である許裳は、「聞蝉」という詩の中で、「造化生微物、常能応候鳴」の句があります。真夏になって、「疲れを知らない歌手の蝉」たちが再び森の枝で歌っているということです。 もう一人唐の偉大な詩人である白居易は、「六月三日夜聞蝉」という詩の中で、「微月初三夜、新蝉第一声」と書かれてあります。毎年旧暦の六月の初めに蝉が鳴き始めることを伝えているのです。 

当方が好きな夏の蛙の音を描く古詩の「約客」を紹介します。作者は南宋の趙師秀です。 

 黄梅時節家家雨   

青草池塘処処蛙   

有約不来過夜半   

閑敲棋子落灯花   

梅の実が黄色く熟する季節は、どの家も雨の中に閉ざされる。青々と草が生い茂る池のあちこちから、カエルの鳴き声が聞こえて来る。約束をしたはずなのに友人は訪ねては来ず、とうとう真夜中を過ぎてしまった。ひまにまかせて碁石をパチリと打つと、灯花がポトリと落ちた。 

(メルマガ黄文葦の日中楽話第51話より)

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