中国人は印鑑とどうつきあっている?

【質問】 

私は中国旅行の際につくった印鑑をもう30年間愛用しています。日本では昨今「脱ハンコ」が叫ばれていますが、中国のみなさんは印鑑とどうつきあっているのですか? 

 【回答】 

30年前に造られた印鑑を現在もご愛用されることは素晴らしいでしょう。これは、印鑑の品質が良く、丁寧に使用されたことを意味するでしょう。 

中国では、印鑑には、企業や団体の印鑑と個人の印鑑があります。古代中国では、印は権力の象徴とされ、人相占いでは、眉の間の位置が「印堂」といい、人相占いの「12」宮の中、最も重要な「命宮」にあたります。 印鑑はアイデンティティ、権力、地位の象徴であり、各人の運勢の発展に密接に関係しているため、通常、人に贈ってはいけないものです。 

文化大革命の時代、印鑑は特に権力の象徴となり、権力闘争は印鑑を奪い合うとなっていました。かつては、公印が中国人の運命を左右するものだったようです。民衆が、政府部門でいろいろな手続きをするには、多くの部門が印鑑を押してもらうことが必要です。 今でも、中国人にとっては、印鑑は神聖なるものです。企業にはやはりそれぞれの印鑑があり、それぞれの印鑑の役割は異なりますが、企業の意思を表し、特定の法的効力を持つものです。

企業印鑑は5つに分類されます。 

(1)会社の実印、工商、税務、銀行等の対外的な業務は実印を押印する必要がある。 

(2)財務印鑑は、銀行関係などに使う。 

(3)契約印は、その名の通り、企業が契約を結ぶ際に通常必要となるものである。 

(4)法定代表人の専用印鑑。

(5)領収書専用の印鑑。 

電子印鑑が登場したのは、中国の「電子署名法」が公布・施行されるずっと前のことで、1990年代半ばから後半にかけて、従来のオフィスモデルが徐々に情報化されるにつれて、紙ベースの文書の流通形態も、電子文書の流通形態に変化していったのです。 電子文書の有効性を確保するだけでなく、電子文書を従来の紙文書と同じ社会的信頼性の高い視覚的効果に達成するために、電子印鑑の概念が提案されました。 

2005年4月1日に中国が「電子署名法」を正式に施行する以前は、電子印鑑が広く認知・応用されていなかったため、初期には電子印鑑の研究に従事する企業は多くなかった。「電子署名法」が公布・施行されてから、電子印鑑技術の研究・応用とその製品は比較的速く発展してきました。 

一方、個人の印鑑は法的効力を持ちません。これは、誰でも簡単に作れるからです。個人の間に関わる法的な書類に通常、署名の上に印鑑の代わりに手の指先に朱肉をつけて、指印を押し、「指紋押捺」ということです。 個人の印鑑には名前印鑑と「閑章」二つに分けられているのです。

「閑章」の「閑」は、暇とレクリエーションの意味合いがあります。秦漢時代の吉祥語印から発展したもので、吉祥語のほかに詩や座右の銘、自戒の言葉などが刻まれることが多いです。 篆刻や書画を専門とする作家は、一般に多くの印章を持っているようです。氏名印鑑を除いて、それらの印鑑は、「閑章」と総称されています。 

 中国の歴史の中で最も多くの「閑章」を持つ人は清朝の乾隆帝で、1000以上の「閑章」を持つらしいです。閑章」は、書道や絵画、書籍や他の個人のアイテムに押すことができます。個人の独特な「閑章」は個人のロゴマークともいえます。 当方にはハンコが好きです。今度中国に戻る際に、自分の「閑章」をつくりたいと思っています。故郷の寿山の石で作ったハンコは高価で有名です。 

(メルマガ黄文葦の日中楽話第76話より)

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