【漫画】『魔法騎士レイアース』「柱」としての天皇制


子持ちコンブ


10連休もあっという間に終わって早や一週間。みなさん、ボーっと生きてんじゃねーよ!!子持ちコンブです。


さて、連休中はひたすら改元フィーバーに沸いていた日本列島。ところが最中にこんな事件があって、子持ちは戦慄しておりました。


天皇制を批判することは、個人的にはなんら問題ではないと思っておりますが(え、みんなもそうでしょ?)、その矛先を「大人」ではなく「中学生」に向けたことに対して、わたしは怒り心頭です。
自分の意思を表明するために、子ども(ないしはその親)に恐怖を与えるという手段は、卑怯で姑息としか言いようがないし、過激派がロケット弾を撃ち込もうとするのとは意味合いが全く違います(樋口亮輔監督の映画『恋人たち』ではそのせいで隻腕になった人物が出てくるのです 苦笑)。


そして、犯人が捕まったすぐ後に天皇陛下の即位の儀式が行われたわけですが、その際皇居に向かう悠仁さまの表情を見て、わたしはまた暗澹たる気持ちになりました…。
そこには笑顔と呼ばれるものはなく、その瞳には「無」とでも言えそうなものが宿っているように、わたしには見えたのです。
この子は今、もしかしたら「皇室に生まれついた自分」について思いをめぐらせているのではないか…?
…そんなことを考えていて、ふと思い出したのが、わたしが小学生の頃夢中になって読んでいた『魔法騎士レイアース』だった。


『魔法騎士レイアース』(ルビは"マジックナイト")は1993年から1995年まで少女漫画雑誌「なかよし」に連載されていた、女性漫画家集団CLAMPによる少女漫画である。剣と魔法のファンタジーに巨大ロボットという異色の設定がウケ、後にアニメ化もされた人気漫画だ。
おそらく世界ではじめて少女漫画に「搭乗型の巨大ロボット」を登場させた漫画で、今のところ唯一のものだと思う。


大まかなあらすじはこうだ。
東京に住む14歳の少女3人が「セフィーロ」という名の異世界に召喚される。その世界は「柱」と呼ばれる一人の女性の「祈り」によって平穏が保たれていたのだが、その「柱」であるエメロード姫がさらわれて「祈れなくなった」ために、魔物の跋扈する混沌の世界と化していたのだった。「姫を救う」という使命を課せられた少女たちは、剣と魔法と巨大ロボットを操り異世界で闘うこととなる…。
こう書くと王道ファンタジーに思えるが、終盤に思いもよらない展開を見せるのだ。


様々な苦難の末、姫が幽閉されている城へとたどり着いた少女たちは、姫は世界のために「祈れなくなった」のではなく「祈りたくなくなった」ことを知る。姫を救いに来たはずの少女たちは、「柱であること」を放棄した姫と対決せねばならなくなり、物語は悲劇的な結末を迎えるのだ。
(この結末はいわゆる「勇者」へのアンチテーゼであり、当時の少年少女たちに永遠に消えないトラウマを植え付けた。CLAMPさん…罪深いよ…)


さて、この漫画のどのあたりが皇室と関係あるのよ?と思われるだろう。
漫画の中の「柱」には行動も職業選択も恋愛の自由もなく、ひたすら世界の平穏を祈り続けなければならない存在だ。つまり「柱」とは「人柱」のことだ。
もちろん皇室は人柱ではないが、一部の人間に多大なる犠牲を強いているという点は、「今の」日本の天皇制と当たらずと雖も遠からず、なのではないかと思うのだ。


姫を守る神官ザガートは言う。
「なぜ姫だけが、セフィーロのために祈り続けなければならんのだ!なぜエメロードだけが、『柱』であるという枷をはめられ、生き続けなければならんのだ!」
(『魔法騎士(マジックナイト)レイアース』3巻より引用)


自由を奪われ発言を制限され、人々のために生きるだけの存在。自分の願いのために生きることは絶対に許されない。
本当に愛する人と結ばれることさえ。

皇室に生まれた男児は宿命的に、もし仮に将来、弁護士や医者になりたいと思っても、例えその素質があったとしても、その願いを叶えることはできない。またそのお妃が背負わされる重責は、想像に難くない。そもそも結婚しない、子どもを作らないなどという選択肢はハナからないのだ。

「伝統」の名の下に、一人の女性、一人の男性、一組の夫婦に一定の不自由さを強いることでこの制度は維持されている。だからこそ尊い、という見方も確かにできるのだが、しかしながら、果たしてそこまでするだけの価値がこの制度にあるのだろうか?あらゆる選択肢、あらゆる可能性を、わたしたち一人一人が考えなければならない段階に来ているのではないか?
少なくともわたしは、すべての少年少女が未来に夢と希望を抱ける世界を考えていきたい。例え彼らがどんな身分であっても、子どもたちを大人の「人柱」にしてはならない。
乗用車の後部座席に心許ない様子で座る一人の少年を見つめながら、そんなことを考えたのだった。

ちなみに言えば、すべての少年少女に「こんなのってないよーーー!」と言わしめた最終回から一ヶ月後、連載が開始された続編『魔法騎士レイアース2』では、「柱」という制度に対する一つの「答え」が示されているのだが…。
気になる方は、是非読んでみてね。
(当然ですが、この文章はわたし個人の意見です。)

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とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍