サラリーマンたちの心の中に「上海飯店」のような秘密基地があれば

                                    黄 文葦

 2019年4月16日よりTBS火曜ドラマの「わたし、定時で帰ります。」を観ている。日本人の働き方・仕事の価値観について描くドラマであった。考えさせられることが多かった。


 吉高由里子演じる「絶対に定時で帰る」主人公の東山結衣と、会社に泊まり込むサービス残業社員吾妻の会話が意味深い。吾妻は、「将来どうなりたいわけでもないし、どうせ出世もできないだろうし、才能もないし夢もないし楽しみもない」と悲観的なことを言うが、結衣は「私たちには給料日がある。私はそれを楽しみに生きてる。意外とみんなそんなもんじゃない?」と明るく答えた。


 サラリーマンの楽しみはなんだろうか。「私たちには給料日がある」、それはとても正直な気持ちだと言える。給料があれば、生活を維持できる。会社とサラリーマンの間で、一番の絆はお金ではないか。会社員の功績を経営者が直ちにお金で評価するべきである。


 本屋さんに行くと、「大きな夢を持ってください」「起業しなさい」などの趣旨の本がたくさん見られる。しかし、世の中にはやはり社長よりも普通のサラリーマンの方が圧倒的に多い。大勢の抜群の才能を持つ方でも組織の一員として働くことを選択した。組織から与えられる「生き甲斐」を味わう。まさに、ドラマの主人公が言う通り、「人生の使い方なんて、人それぞれだと思うんだよね」。


 言うまでもなく、人にはそれぞれの考え方がある。組織の中にいる限り、会社の理念に従うはず。自分の思い通りにならないこともしばしばある。しかも、周りの人達と調和しながら仕事をこなすわけである。


 それで、また給料のおかげで、いろいろ仕事以外のことが楽しめる。ドラマの主人公の結衣は定時に会社を後にしたら、まず急いで会社近くの中華料理屋さん「上海飯店」に駆け込み、ビールを飲み、中国人オーナーと楽しくしゃべる。それから家に帰ってドラマを見て、好きな人とおしゃべりをする…一日の疲れとストレスはその日のうちに解消するだろう。


 もっと人生の楽しみを見つけるために、サラリーマンたちに薦めたいことがある。思い切って、副業をしてはいかがでしょうか。勿論、現在でも多くの企業には副業規制が設けられている。企業は従業員に対し、もっとオープンな姿勢を見せてほしい。仕事以外の「縛ること」を捨てて自由を与えよう。働き方改革によって、サラリーマンの自由な時間が増えそうである。できれば、副業によって、サラリーマンの才能を開花させる。さらに皆の趣味を稼ぎに変えれば幸いだろう。


 現在、ネットを使って稼ぐことは普通だ。人生百年時代、人々は生涯働く。ずっと一つの業界ましてや一つの会社で生涯わたって仕事をすることはだんだんなくなっていく。従って、副業は生涯学習・生涯働くことにつながる。「本業」と「副業」、二つの世界を生きると、「お金」と「自由」の両方を手に入れて、人生はもっと豊かになる。


 自分のことを語ってみる。私はどんな仕事をしても、フリージャーナリストを続けたいと思っている。フリージャーナリストという仕事にはチャレンジ精神があふれている。フリーだから、信念を持ち、自らの意思で動く。いつも素早い行動力を求められているはずである。日本に来てから、私はフリージャーナリストという仕事に出会った。日本では、優秀なフリージャーナリストはたくさんいるだろう。


 新聞社に所属していた時期もあった。組織に所属すると、組織の意思で動かなくてはならない。「これを書きなさい」、このような言葉に違和感を覚えた。勿論、新聞社などマスコミに所属することに利点があることは否めない。例えば、安定した収入と多くの情報源が入手できる。でも、文章を書くことには、私は「わがまま」を貫いていきたい。つまり、自分が書きたいテーマを選ぶ。自分が本当に思っていることを伝えようとする。フリーだから、いろんなマスコミに頼まれる。その上で、やりたくないこと、やりたいこと、ちゃんと分けている。記事の量より、記事の質が大事。そして記事を通して「自分磨き」ができればいい。一応、私はフリージャーナリストだが、ありがたいことに他にも教育関係の仕事をしている。それでも生活と精神の糧である。


 今後、また他の仕事を体験するかもしれないが、フリージャーナリストという仕事は私にとって、生涯にわたって継続的にできることだと思う。細く長く続けたい。これからも日本語をもっと磨きたい。


 というわけで、サラリーマンたちが自身の職場の近くに…いいえ、心の中に、「上海飯店」のような寛げる「秘密基地」を見つければいい。このコラムは私の心の「秘密基地」の一つである。

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍