【コラム】時間が作る味


子持ちコンブ

毎年、子どもと梅ジュースを作るのが6月の恒例行事である。

大きめの蓋つきのガラス瓶に、梅と氷砂糖を入れ、最後に食酢を回しかける。
ただこれだけの単純で簡単な作業だが、やり終えたあとはわたしも子どもも、なんだか一仕事終えたような達成感があり、心置きなく夏を迎えられるような気持ちになるのだ。

やがて瓶には梅から出た水分が溜まっていき、本格的な夏がはじまる頃にはきらめきをまとうトロリとした液体で満たされる。それまでだいたい3週間ほど。

凍らせた梅を使うものや、梅じたいに火を通して早く作るレシピもあるのだが、わたしはこの作り方のシロップが好きだ。
時間をかけて抽出されたエキスは梅特有の甘酸っぱい爽やかな香りを放ち、水で割ってもその風味は保ったままだ。
夏の香りである。


もう一つの恒例行事は、味噌の仕込みである。これは1月~2月頃、夫主導のもとに行われる。

じっくりと煮た大豆を熱いうちに潰すのがわたしと子どもの役目。厚手の袋にいれて踏み潰すのだ。ひたすら、ひたすら、豆を、踏み潰す。
豆の柔らかい感触と熱が足に伝わり、ちょっとした足裏マッサージのような感覚で気持ちいい。

まんべんなく潰せたら、塩と麹を混ぜて容器で熟成させる。だいたい5カ月ほど。
早めに開けると色は薄く塩味が強いが、長めに熟成させると、色は濃くなり豆と麹の深みがましてよりまろやかな味わいになる。
どちらも美味しい。

夫は毎年塩と麹の配合や種類、熟成期間を記録していて、手作り味噌の奥深さを楽しんでいるようである。

手軽に、簡単に美味しいものが手に入る時代だ。わたしもインスタントやレトルトの食品を活用して献立を用意するし、日々の料理は手早く効率よく作れることを念頭に置いている。

時間をかけて作り出された味を楽しむ、なんてことは効率化と利便性を求められる昨今において、贅沢なことなのなもしれない。
それでも、心にも時間にもその余裕がある限りは、この贅沢をいつまでも味わい尽くしていきたいと思う。

先日の真夏日の日、今年の梅ジュースはすべて飲み切った。
我が家の夏は、こうして終わる。

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍