政治家の表情


                                                                                                                  黄 文葦

 今年10月1日、即ち中国の「建国記念日」。歴史的な低支持率にあえぐ香港の林鄭月娥行政長官は北京の天安門広場で行われた軍事パレードに出席し、兵士たちが行進する様子を笑顔で見つめる姿がカメラに捉えられた。正直言うと、その笑顔を見て、違和感を覚えた。「こんな時、愛想ある笑顔を見せる場合はじゃないよ」、と言いたくなった。周知のように、中国建国記念日の際、香港での市民デモがさらに激しくなっていた。 本来、その敏感な節目の際、行政長官がお祝い雰囲気の北京にいるわけではなく、香港で市民を見守り、しっかり対策をとるべきではないか。その表情が間違ったではないか、心なさを現れるものではないか、と問いたい。



 この前、林鄭行政長官は初めての市民との対話集会を開いた。その時、苦しくて当惑した表情も印象的であった。林鄭氏は冒頭で「いまの難しい状況を打開する責任は政府にある」と述べたが、市民代表の怒りに対し、何にも言い返せなかった。無力感を垣間見えた。香港情勢がますます厳しくなってきた。当初、香港政府が「逃亡犯条例」改正案をいきなり提出させ、市民に寄り添う姿勢を見せなかった。香港政府が、香港市民への説明責任より、中国政府の機嫌をとることを優先したらしい。優先順位を間違ったではないか。さらに対応の不手際がデモを長期化させたと考えられる。



 因みに、テレビでみる日本の政治家はほとんど無表情で、表情から心情を読みにくいというか。ある意味で一喜一憂しないことは、政治家の基本的な素質だと考えられる。国際政治の舞台の上で、政治家の表情から外交姿勢が見える。今年6月に、大阪で開催された20サミットのセッション3開始前に、安倍晋三首相が韓国の文在寅大統領と握手を交わした後、厳しい表情を見せた。それは、日韓関係の険しさを示すものであった。政治家の表情の使い方から国の政治の在り方が見られるかもしれない。アメリカのトランプ大統領の表情がいつもみるみる変わって、感情を溢れ出す。怒っても喜んでも大事なのはその表情から余裕と自信が見られること。世界の政治家の中、オバマ前大統領の話し方と表情が一番魅力的だと私は思う。オバマ氏が穏やかな表情を持って、情熱的な言葉を発信し、有権者に安心と信頼を与えようとする。



 話を香港に戻る。11月24日、香港で行われた区議会議員選挙で民主派が圧勝した。民主派が過半数に届いたのは香港が中国に返還されてから初めてのこと。自由と民主の風、確かに力強く示された。選挙という明確な形で民意が示されたと受け止めて、中国政府と香港政府が対応するべきである。数が月の混乱局面、特に香港政府には責任が重大だと思われる。これから行政長官はどんな表情を香港市民に見せるだろうか。世界が注目する中、一刻も早く香港の厳しい状況を収束するよう願わずにいられない。ただし、行政トップが大衆に対し、余裕な表情を見せられなくなったら、むしろ一度身を引くべきではないか、敢えて言ってみたい。

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍