緊急事態の中、腕時計を買った

スペシャル「私の不要不急」                   黄 文葦



「不要不急」とは、「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」だ。新型コロナ感染拡大の緊急事態の中、皆がやりたいことを我慢しているだろう。



先日、あるネット交流会で、私は皆に「あなたにとっての不要不急は何でしょうか」と問いかけた。 皆のそれぞれの「不要不急」とは、旅行とか、運動とか、美容院とか、デパートのショッピングとか、映画館とか、教養講座とか、考えてみれば、「不要不急」からその人の価値観がわかってきて面白い。私の普段の「不要不急」を言えば、カフェで紅茶を飲みながら本を読むこと。「不要不急」なことがあってこそ、私たちの暮らしが豊かになるだろう。  



昨年、自分にとって記念すべき「不要不急」のこととは、ブランド時計を買った。アクセサリーの中、腕輪が一番好きだ。手首につけるものはいつでも自分がみられる。ネックレスは大体他人に見せるもの。同じの理由で、腕時計も好きだ。数千円を出せば、おしゃれな物がある。今まで買った腕時計はほぼ安い物、せいぜい1万円前後ぐらい。腕時計は便利な飾り物という存在だと認識している。



今、携帯電話に時計機能がついているため、腕時計をしない人が増えてきたではないか。腕時計には時間を見るだけじゃない価値があると思う。就職活動中の大学生、腕時計をつけたほうがいいと思う。ある調査によると、初対面の男性をチェックするポイントはいろいろあるのが、実は腕時計を見ている女性が結構多い。腕時計を付ける男性に、女性のイメージは「おしゃれ」「かっこいい」「仕事ができそう」「きちんとしていそう」などが多く、中には「お金を持っていそう」という意見もある。


  

昨年、時間の余裕ができて、今までの安物とは違って、ブランド時計を買おうと決心した。とても「疎」になっているデパートの時計売り場を回っていた。自分には時計が好きだけれど、時計の世界には知らないことが多くて、ブランド時計たちは正真正銘の芸術品だ、と感心した。洗練されたデザインの日本ブランドのシチズン腕時計に懐かしい感情を抱いている。シチズンの中国語訳は「西鉄城」、子供の頃からよくテレビの広告で、観ていた憧れの日本の高級品であった。


 

シチズンも好きだが、最終的に十数万円のグッチ(Gucci)の時計を選んだ。時計の世界には、それは高級品とは言えないだが、自分の好みだと直感的に気に入り、ピンク色、猫の図のデザインが嵌められている。初めてその時計を腕につけると、あたかも「時間」のカタチがきらきら見えた。 



子供の頃から、親から「節約習慣」を教われてきた。昔、中国人の概念では、ブラント品は欲・浪費にほぼ等しい。日本に来て、多くの日本人の暮らしは節約傾向が顕著だと感じている。私はブラント鞄が一つも持っていない。昨年から、消費観念をちょっと変った。無常な日々をしばしば実感し、「今を生きる」の思いが一層に増した。ブランド品を買うのは目立ちたがりではなく、経済能力の範囲内、生活の質を高めようという心情である。十数万円の気に入りの時計は、以前の普通の時計とは一味違った時間の美しさと柔らかさを感じさせてくれる。 


 

ブラント品の特徴を言えば、値段が普通のものより高い。でもそれだけではなく、ブラント品は希少性、優れた品質、比較的長持ちする価値を持ち、人間は美と文化と高品質を追求することが濃縮されている。経済的な意味での贅沢とは、本質的には一種の高級志向な消費行動であり、社会的な意味では、個人の好みや暮らしの文化を現すようなものである。  



お金を使う時というのは、本当はお金を儲けるときではなく、時間と精神的な余裕があるときだろう。新型コロナ時代、ロックダウンをしなかったし、一人ひとりの自主性に委ねられている日本に生きること、心の底から幸せだと思っている。緊急事態の中、ブランド腕時計を買ったことは贅沢な「不要不急」だ、と感無量に思う。美しい腕時計は飾り物であり、さらにこころの糧にもなる。 

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍