トルコ映画にハマっている。

「私の不要不急」
 子持ちコンブ


タイトルの通りである。

そもそもの発端はわたしが加入しているサブスク(Netflix)で配信期限を迎えるトルコ映画が数十本あったために、試しにと観てみたら、ハマった。めちゃくちゃ面白い。 
というわけでこの1、2ヶ月の間に観たトルコ映画30本ほどの中から、特に印象に残っている作品を紹介したいと思う。


コメディ

『G.O.R.A. 絨毯は宇宙を救う!?』
UFOの捏造写真を撮影し雑誌社に売り込んでは一蹴されている絨毯屋の男。ある日、本物の宇宙人にアブダクションされるが、惑星の危機を救ったことで星の王女と恋仲になる……というあらすじからして大渋滞している、ハリウッド映画パロディが満載なSFコメディ。 

わたしがトルコ映画にハマるきっかけとなった作品。
とにかく、トルコのコメディはほとんどが、「ハチャメチャ・ドタバタ・終わり良ければ全て良し」の3ステップ。
一発ギャグ的な小ネタで何度も本筋から外れ、気づけば唐突に大団円を迎える……という感じ。でもその強引なところが新鮮で、なんともクセになる。

この「G.O.R.A」もそんなトルココメディの定石を踏んだパロディ映画だ。
古代の言い伝えを用いて隕石の衝突を回避する(フィフスエレメント)、黒ずくめの服装で弾丸を避ける(マトリックス)、夕日の下、木人椿で空手の修行(ベストキッド)、などなど、映画のパロディネタが実に(雑に)展開され、全てがカオスだ。でも面白い。

トルコ映画はパロディ映画が多い。
特に70、80年代はエセスターウォーズやエセエクソシストなど、オマージュというかパロディというか、もはやパクり映画じゃね?みたいな作品が多く作られ、発展してきた側面もあるそうだ。
今でもトルコは多くの外国映画・ドラマのリメイクが作られ人気を博している。最近だと有名なのは芦田愛菜ちゃんの日テレドラマ「マザー」のトルコリメイク。レンタルや配信で日本でも観ることができる。

トルコは80年代まで、他国との衝突や内紛により政治的に混乱が続いていた。だが90年代に入ると国が安定し、それと同時にトルコ映画界もアート系、娯楽系ともに充実していく。
パロディ映画で培った文化的土壌は、トルコ映画界を押し上げる底力でもあったのではないかと思う。

ちなみにこの「G.O.R.A」は本国で大ヒットしたらしく、シリーズ化され続編が2作作られている。


戦争映画

『エスケープ・フロム・イラク』
ISの人質となったトルコ人ジャーナリストを救出する任務を負い、イラク入りした7人の兵士。作戦は無事完了するが、途中立ち寄った村がISの標的になっていると知り、命令に背いて村人を助けることにするが…… 
ならず者から村人を守るため、7人の男たちがその前線に立つ。話の流れは言うまでもなく「七人の侍」である。

トルコ軍と言えば、シリア情勢におけるクルド人への攻撃などもあって、国際的には微妙な立場にある。作中登場するジャーナリストも彼らを批判する側の人間だが、結果的にその辺りはうやむやとしたまま、トルコ軍の活躍を称賛し、ある種のプロパガンダとして映画は終わる。 

モヤモヤとしたものがないわけではないが、とはいえ、銃撃戦も迫力がありエンタメアクションとして観れば十分面白い。
 
トルコでは戦争映画も大変人気なようで(あるいは単純にそういったプロパガンダ的なものが必要とされるお国柄なのだろう)、毎年多数の作品が作られている。この映画も『サバイバーズ』という作品の続編に当たる。

ちなみに、クルド人勢力とトルコ軍との戦いを描いたシリア映画『フォートレス・ダウン 要塞都市攻防戦』という作品では、トルコ軍は残忍な敵として描かれる。
立場によってそれぞれの姿を見せるのが、戦争映画である。


フェミニズム映画

『クルトゥルス女性同盟』
同じアパートに暮らす6人の女性たちはパートナーの横暴に悩まされていた。共通の傷を持つ彼女たちは団結し、男たちに復讐しようと立ち上がる。しかしやりすぎて警察沙汰になり、最後は国をも動かす大騒動へと発展する……という内容のブラックコメディ。
中東やインド、イスラム圏では長らく女性差別の問題が映画のテーマとなることが多かったが、現在はより強固な形でフィクションに落とし込まれることが増えた。トルコ映画も例外ではない。

 
トルコは女性の服装は自由だし、他のイスラム諸国と比べればそこまで厳格なイスラム社会というわけではない。
ただ、家父長制的な伝統は根強く、「結婚するまでは父親の、結婚したら夫の言いなり」という風潮がある。中には腕力によって「女性を黙らせる」場合も往々にして少なくはなかったのだが、それを女性側も半ば諦め気味に受け入れてきた。

本作はそんな現実に対してショック療法的にNOを叩きつける作品だ。 
女性たちに連帯を呼びかける落とし所は、当時のトルコ女性たちに「あなたは一人じゃない」という強いメッセージを与えたことだろう。

タイトルの「クルトゥルス」とは、作品の舞台となる場所の地名として登場するが、意味はトルコ語で「解放」。2012年の作品。


アート系

『Times and Winds』
トルコの山奥の村で暮らす子どもたちの目線で家父長制の歪みを描いた作品。
田舎の狭いコミュニティ特有のいや~な感じが作品を覆っており、父親から理不尽に叱りつけられていた子どもが、その父親が祖父(つまり父親の父親)から酷く罵られるのを見てしまうシーンの地獄ぶりたるや。

親殺しを実行しようとするなど「恐るべき子どもたち」系の映画ではあるのだが、最終的に「家族の絆は切っても切り離せない」という帰結に落ち着くのは、実に中東的だなぁと思って観た。
 
監督のレハ・エルデムは現在のトルコアート映画界を代表する作家の一人。過去に日本でも特集上映が組まれたこともあるらしい。
自然をとらえた繊細な映像表現が胸を打つ、静かな秀作だった。


というわけで、不要不急な中で観ているトルコ映画の話でした。
とりあえず今後は、100本を目標に積極的にトルコ映画を観ていこうと思っている。


追記:トルコ語で「あらあら」は「アーラアーラ(Allah allah)」と言う(「アーラハッラー」とも聞こえる)。
なんとなく日本語に近い気がして、嬉しい。

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とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍