福島第一原発の処理水問題と日中関係

                                  黄 文葦


久々に「日中関係」という言葉を使う。この2,3年間日中関係はいい流れが見られていたのが、最近、日中関係には悪化の兆しを見せている。 まず、日本政府が東京電力福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を決めたことについて、中国国内の数人の知り合いが「日本は海を汚してはいけない」「日本政府に抗議する」など声があった。中国マスコミが日本政府を環境破壊の罪人のように扱い、強く批判している。世論は急に日本批判の嵐を起こしている。 

 しかし、その中に異なる意見もあった。先日、中国の原子力発電所の作業員と思われる人物が、核汚染水の排出に関する質問に「知乎」のウェブサイトで「すべて規則に沿って適切に処理されていれば、影響は軽微である」と結論づけたところ、炎上し多くの人が告発を行い、その作業員の言論を通報した。 告発をした一人は、「正しいかどうかは別にして、政府機関のスタッフである以上、政治的な意識を持ち、主流の意見と対立しないようにすべきだ」と考えた。経済が急成長している今日、多くの人の中には何よりも政治的な正確さが大事だという意識がまた残っている。 

 かつて、日中関係が悪化したとき、中国の人々からは、反日的な意見ばかりではなく、冷静で理性的な意見も出ていたが、その冷静な声もすぐにかき消されてしまった。「主流の意見」に従うことが大衆の習慣になっている。日中関係の変化は、良くも悪くも中国社会への影響が日本より大きい。また、日中関係とナショナリズムも相変わらず密接なようだ。 

 また、日本のネット上で、「中国沿岸の魚は汚くて獲れないだろう。核じゃなくて化学物質垂れ流しているじゃないか」「中国はまず環境汚染を解決しろ」「中国の大亜湾原発も2002年に42兆ベクレムのトリチウムを放出している」など中国に口答えをしたり皮肉ったりするコメントが出されて、これは日本の原発の処理水問題を批判した中国への反発だとみられる。 

 日中の政治関係だけでなく、日中の民間的な関係にも少なからず影響が出ているのではないかと心配しなくてはならない。 以前の経験によると、日中関係が改善されると、すぐに多くの中国人が日本への旅行や日本留学を計画する。ただし、日本に関するネガティブな報道に対して、真っ先に思い浮かぶのは、専門家の話を聞いて科学的に判断するのではなく、大勢の人に従うことであり、もちろん中国の専門家の多くも政府の言うことに従うらしい。 

心配なのは、中国で日本近海の汚染の噂が出てから、日本に留学しようと思っていた人たちが、留学することを恐れていることだ。新型コロナの感染拡大による日本への留学生の減少は、さらに深刻化するだろう。 

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍