20年間続けている伊豆の旅

                             黄 文葦

子供の時、中国で日本映画「伊豆の踊子」を観た。映画の中、山口百恵と伊豆の美しい海が心の奥底に残っている。伊豆は親しい場所と記憶する。 伊豆には何度行ったか忘れてしまったが、昨年10月23日、東伊豆へ一泊の旅に行った。面白いことに、伊豆に行くたびに前回と違う感覚が生まれてくる。

20年前、初めて伊豆に行った。当時アルバイトをしていたパン作りの会社は伊豆の社員旅行を計画した。ありがたく大勢の留学生アルバイトにも行かせてくれた。初めて日本の「社員旅行」に参加できて、かなり興奮していた。日帰り旅行で、大型バスに乗って伊豆の旅に出た。おいしい金目鯛うどんと刺身を食べて、温泉に、お土産を買って…留学生アルバイトたちにとっての「社員旅行」は、贅沢な最高の旅であった。 

しかし、その時に行った伊豆のどの場所かは忘れてしまった。この文章を書く前に、昔の写真集を調べてみると、当時、伊豆で仲間と撮った記念写真が出てきた。1枚の写真はレストランの前で撮ったもので、そこに書かれている文字「伊豆の味 金目鯛うどん 伊豆の味 とろろ御膳」をネットで検索したところ、お店の名前を特定した。東伊豆の今井浜海岸駅から歩いて20分ぐらいの「河津の庄」というレストランであった。偶然にも、今回伊豆の旅にも今井浜海岸駅近くにある今井浜東急ホテルに宿す。 

十数年前の二回目の伊豆旅にも「社員旅行」であった。日本で初めて就職した会社の社員旅行。なんとか、大雨の中、登山リフトに乗ったと覚えているので、場所は伊豆高原の大室山だと思う。不思議に、その日、あいにくの大雨だけじゃなくて、帰り道に地震にもあった…かなり異色な旅だという感覚を覚えた。伊豆は「社員旅行」にふさわしい場所であるかもしれない。東京から二三時間の距離、集団で楽しめる海と温泉が癒してくれる場所だろう。 

コロナの前の2019年12月、伊豆大島へ行った。海に囲まれた島だが、一番印象に残っているのは、山の風景と多彩な植物であった。伊豆には、海と温泉だけでなく、火山をも含める山々が豊かな自然を抱えている。食べ物にも、海の幸、山の幸、両方に恵まれている。 

 今回の伊豆の旅、コロナ時代の色に染められている。午前10時、東京駅から特急踊り子号に乗って、二時間半で河津駅に到着。ホテルのシャトルバスでホテルへ、午後3時にチェックイン予定だが、ホテル側が柔軟に対応してくれて、午後1時にホテルの部屋に入った… 入った瞬間、驚いた。目の前に、海だ!客室は海に向けるもの。ベランダに立つと、まるで海に囲まれて、波が押し寄せる海の真ん中にいる気分になった。雲の切れ間から見える午後の日差しが変幻自在そのもの。忙しい日常の中では、日差しの変化を感じる余裕が全くない。 

その日の夕方、ベランダで、偶然、海のそばで行われた素敵な結婚式に出会った。たった10分という短い時間、凝縮された結婚式であった。教会での結婚式のように、花嫁は父親の腕をつかんで白いカーペットのバージンロードをゆっくりと歩き、父親は娘を新郎のもとへ… 結婚式のゲストは10人以下のようであった。多くのホテルスタッフが参加し、二人に温かい拍手と色とりどりの花びらを贈った。海は波の音でお祝いを送っているでしょう。ベランダにいる当方もこころから祝福を贈った。 

2020年より、観光地のホテルは賑やかになっている。勿論、ホテル側はいろいろ感染対策をよくしてくださった。レストランの中、テーブルの間、十分な距離をとっている。ホテル側が「時差食事」とか、「時差温泉」とかをアピールし、お客にはなるべく時間と空間をずれて旅の醍醐味を与えてくれている。 

ところで、私はが軽い気持ちで、河津七滝へ行きバスを乗ったら山の奥に入った。思ったより本格的な山登りになってしまった。険しい山の階段、揺れる吊り橋と触れ合った。 河津七滝の山の奥、完全な中国語の看板を発見した。日本語で訳すと、「国立公園へようこそ!機会があればまた来てくださいね」という。これはかつて中国人観光客がどれだけこちらに来ていたことを物語っている。「今、この中国語の看板は、私一人のためにあったものだ!」と不思議に思った。看板の前に、中国人観光客が早く日本に戻ってくるようと願う。 

 河津七滝に訪れた人は、ほとんど一人、二人組の観光客。晩秋は旅行にぴったりの季節。マスク姿の人たちが静かに旅を味わっているようである。一つひとつカタチ異なる滝たちが、休まずに清流の演奏会を行い、滝の音も同じではなく、いろいろ音階があり、心に響いている… 新型コロナ時代の旅は続けている。伊豆の旅をもずっと延長していこう。 

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍