『スミゾニアン 宇宙大図鑑』
最先端の望遠鏡が
とらえた宇宙の実相は
775時限目◎本
堀間ロクなな
朝食をとりながらテレビを見ていたとき、きょうの運勢というコーナーになって、魚座のラッキーアイテムは宇宙の図鑑だと教えられたのがきっかけだ。もうずいぶん前に購入したままになっていたロジャー・D・ラウニウス著『スミソニアン 宇宙大図鑑』日本語版(2025年)をひもといたのである。
少年の日に胸ときめかせた宇宙旅行の夢をふたたび――。アメリカのスミソニアン協会の監修のもと、最先端の望遠鏡がとらえた画像をふんだんに収録したという本書の存在を新聞で知って手に入れたのは、こうした童心が働いたからだった。ところが、ずっしりと重い大判の図鑑のページをいざ開いてみると、眼前に鮮やかなカラー印刷で広がったのはそんな単純素朴なものではないことをすぐに覚った。
いきなり目を奪われたのは、衛星軌道上に設置されたジェイムス・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が2022年7月に撮影したというりゅうこつ座星雲の一端だ。地球から約7600光年の距離にあるこの星雲形成領域は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が「宇宙の絶壁(コズミック・クリフ)」と名づけたとおり、威風堂々とそびえたつ山稜としか思えない。この光景は一体、なんなのだろう?
ヴァルハラ城。
北欧神話が伝える神々の座であり、それをもとにリヒャルト・ワーグナーが楽劇『ニーベルングの指環』四部作で描きだした世界支配をめぐる壮大な権力闘争のシンボルとなった天上の城が、わたしの目には二重写しになって映ったのである。太古の人々が星空を見上げてイメージした神秘の世界と、現代の最前線の科学技術がとらえた宇宙の実相が重なりあうとしたら、なんと不思議なことだろう!
人類が初めて目にする光景の数々。それらを辿りながら宇宙の最深部へと分けいっていくのだが、上記のJWSTがとらえた最古の銀河は、なんと光が地球に届くまで134億年以上かかるため、宇宙が誕生したビッグバンからほんの3億5000万年後の銀河の姿を教えてくれているという。こうしていま明らかになってきた宇宙の全体像を踏まえると、その宇宙がやがて迎える終焉についてつぎの3つのシナリオが考えられるそうだ。まさに21世紀の新たな神話といえるのではないか。日暮雅通訳。
ひとつには、不安定なダークエネルギーが「ビッグリップ」を引き起こす可能性がある。宇宙は膨張しながらその構造自体を引き裂き、銀河や恒星、惑星、原子までが壊滅する。あるいは、宇宙の膨張が緩やかになって止まり、収縮へ向かう場合は、「ビッグランチ」が訪れる。宇宙が圧縮され、無次元の特異点に集束するという終わり方だ。第3の可能性は「ビッグフリーズ」。宇宙は永遠に膨張を続け、やがては冷えきって無に帰す可能性が高いといものだ。
『スミソニアン 宇宙大図鑑』のページはこのあと、さまざまな銀河や星系を経て、外太陽系、内太陽系……と進んでいく。つまり、大方の同種の図鑑とは反対に、宇宙の全体像からだんだんに地球へとレンズの焦点が絞り込まれる構成となって、あたかも神話の世界が人類の歴史に収斂していくのと対応しているかのようだ。
かくして、最後には現在進行中の月面探査・開発の「アルテミス計画」の詳細や、そのあとに続く火星の探査、さらには人類が惑星間種族に進化する未来図までが示される。
宇宙旅行を支持する人々にとって、人類の地球外移住は長いあいだ優先事項だった。気が遠くなるほど困難ではあるが、可能性は無限にある。その方向へのささやかな歩みが、すでに月と火星の継続的探査・開発に関する議論に織り込まれているし、時代が進むとともに宇宙への移住に対する関心が高まって、優先順位も上がっていきそうだ。
こうした説明文に添えて、宇宙服の肩にアメリカ国旗をつけたNASAのクルーたちが月や火星の静寂な地表に立って、せっせと自然環境の調査や居住施設の建造にいそしむ模様が描かれている。それは確かに人類にとって宇宙旅行の夢と希望のヴィジョンだろうが、しかし、かつて少年の日の胸をときめかせた気分からほど遠いものを受け取ってしまうのは決してわたしだけではあるまい。このところ連日のニュースで、星条旗のもとに地球上で繰り広げられている事態を目の当たりにするにつけ――。
ことによったら人類を宇宙へ野放しにしてはいけないのではないか? このアメリカ発の素晴らしい図鑑は、そんな逆説的な感懐も抱かせずにはおかないのである。
0コメント