今日の武漢は「英雄都市」になっている…

                                  黄 文葦

 

今年は、中国の武漢という都市が世界に注目されるようになった。新型コロナの発生地であったのが、数か月後、まさか「英雄都市」に変身した。



 今年前半、武漢の感染拡大が最も広まった頃、当方は武漢が再び観光のホットスポットになるまでに2年はかかるだろうと予測していた。まさか武漢が年内にホットスポットになるとは思わなかった。新型コロナ時代の中国スピード感に感慨深い。 かつては新型コロナウイルスの破壊力を世間に知らしめた武漢は、今、中国のメディアには謳歌の対象となっており、権力者は中国の回復力の象徴として武漢を賞賛している。


  

武漢の新型コロナの対策を題材にしたドキュメンタリーシリーズ、連続ドラマが続々と誕生した。いずれも感動物語である。視聴者からは「涙が出た」との声があがるほどの熱唱があったアンチエピデミックショーもあった。 テレビ上、政府の関係者が最初新型コロナに襲われた都市に敬意を表し、中国文化と観光部が武漢の医師を題材にした新しいオペラに助成金を提供した。



マスコミは、武漢への観光客の流入を絶え間なく興奮気味に強調している。武漢の病院が企業経営者の訪問を歓迎している。 武漢が「英雄都市」として脚光を浴びる理由の一つは、武漢が目覚ましい回復を遂げたことにある。米国など多くの国ではいまだに感染拡大に悩まされているが、武漢をはじめとする中国全土での感染者数はゼロに近づいている。 

最近、数十人のグローバル企業の経営者訪問団が武漢を訪れ、今後のビジネスチャンスについて武漢で話し合った。先月、ルイ・ヴィトンは武漢を新しい展示会ツアーの最初の訪問地にした。 勿論、76日間の過酷な閉鎖がもたらした多大な経済的損失を受けた武漢は回復することに歓ぶべきである。混雑したプールや過密な遊園地は、今や武漢の完全な景気回復の証である。 


 

ただし、忘れてはいけない悲しみがある。新型コロナの発生初期、政府の遅れた対応で武漢は高い代償を払い、武漢の人々の怒りは消えていないはず。かつて、感染状況を隠蔽しようとする政府への怒りが沸き起こった。 しかし、現在中国マスコミの武漢についての語り口は、ただただ感染拡大を抑えた成功を称賛し、教訓と反省の余地をほとんど見えない。 言うまでもなく、中国では、世論の多様化が難しく、ネット上では多くの「武漢ドラマ」が称賛されている。



しかし、SNS上、一部の視聴者からは、武漢の悲しみを白塗りにしたり、人の心の痛みを無視して、成功を単純化しすぎたりしていると批判されている。 中国のテレビ局が制作したドキュメンタリーシリーズでは、李文亮医師について触れてなかった。李医師は、新型コロナについて最初に警鐘を鳴らしたことで処罰され、後にウイルスに感染され、犠牲者になった。一部のネチズンは、政府主導のテレビ宣伝番組が李文亮医師を言及しないことを痛感し、それを批判した。


  

多くの武漢謳歌の映像が、ハイスピードで武漢を「英雄都市」に成し遂げさせる政府の願望を浮き彫りにしている。多くの犠牲を払った武漢人にはマスコミが描いたほど喜んでおらず、今でも、悲しみの中で生きている人々がいるではないか。 いつか、新型コロナについて、政府の成功と失敗を客観的に記録したドキュメンタリーを誕生してほしい。  

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍