「やばい」、という素晴らしさ

                                                                                            黄 文葦 


 スペシャル「私の7時のニュース」


今回のオリンピックで、新しい競技種目がある。例えばスケートボード、少年のスポーツだという印象を受けている。 

若いスポーツであるスケートボードの若い解説者の言葉は面白い。「やべええ」、「すげえ」「マジヤバイっす」「あつい」を連呼する。SNS上でも話題になっている。「スケートボードの技はどのくらいありますか」の質問に対し、若い解説者は「無限だ」とさっぱり自信満々に答えた。 

 オリンピックの試合で、NHKの解説者も「やばい」を出たらしい。ちょっとびっくりした。東京五輪がなかったら、テレビ言葉の革命的な変化を気付かなかっただろう。これもオリンピックの見頃だと思っている。活気溢れる異質な言葉がどんどん出てきて、この夏、テレビは賑やかに多彩になっている。 

 「やべええ」「すげえ」「そうっスね」「マジっスか」などなどは若い男子の言葉だ。爽やかな感じで、それでも日本語の進化だと思う。「言葉は生き物だ」、日本語の啓蒙先生が教えてくれたこと。古墳、飛鳥、奈良、平安、室町時代の日本語の発音をネットで聞いてみた。同じ単語の発音で現代日本語と大分違う。 

 「やばい」という言葉について感想を述べたい。20数年前、私は日本語を勉強始めた頃、「やばい」は「だめ、ひどい、いけない」という意味を覚えた。つまり状況・具合が良くないさまを表現する。

 でも今は、「やばい」は、「やばいほど素晴らしい」という意味合いを持つ。喜びを表現する言葉になっている。褒める時でも褒められる時でも、「やばい」を言う。「やばい」を愛用することから日本若者の性格が垣間見える。少し控えめ、少しシャイで、本来「万歳」、「最高」と言ってもおかしくないことだが、「やばい」になってしまう。 

 この間、知り合いの女の子が「やばい!やばい!やばい!」の携帯メッセージを送ってきた。何かあったのか、と心配したところ、「プロポーズされた!」と次のメッセージが来た。なるほど、プロポーズされた時でも思わず「やばい」と叫ぶ。 

 結局、「やばい」はどんな感情でも表現できる万能言葉になっている。「やばくない?」の言い方もかわいい。日本語が若々しくなったと感じた。 

 因みに、政治家の愛用の言葉は「○○させていただきます」らしい。そういう言葉には愛と生命力がない。上目線的で、既成のことを相手に結果を押し付けて、何があっても、それはそれ、受け入れなければならないという姿勢がある。コロナの中、飲食店に対するいろいろ制限を「○○させていただきます」で始まった。 

 日本語の敬語は、外国人には、かなり難しい。在日留学生は敬語をなかなかうまく使えないのが、「マジヤバイっす」をうまく使う留学生が結構いる。「マジで」と「やばい」、この二つの単語をうまく使うことで、日本人の友達ができた人もいる。 

 今回の東京五輪について、感想を聞かれたら、私はまず、「やばい!」と一言で言っておきたい。歴史に残る「やばいオリンピック」である。感染症と共に、進行していくオリンピックは確かにやばい…開催国の日本だけではなく、世界の人々の総力を挙げた挑戦だと言える。 

未曾有の厳しい状況を克服し、世界各地から1万人以上の選手が夢の五輪舞台で競技を行い、逆境の中、選手たちがよく頑張ってくださった。選手のうれしい涙、悔しい涙、やばいほど感動的な五輪物語たちである。 

 東京五輪を通して、「やばい」、という素晴らしさを改めて認識した。 

  

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とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍