中国の「人防戦備緊急キット」と日本の「防災グッズ」

 中国では、「人民防空」という政府機関がある。敵の空襲に備えて国民を動員して組織化し、空襲の影響を排除するためにとる行動のことで、今でも「人防」と呼ばれている。つまり、人防は戦争とつながるもの。現在、防空活動と平時の災害救助活動を組み合わせて行うことがある。「戦備」は、戦争の準備のこと。 昨年、中国済南市では、合計1万個の「人防戦備緊急キット」が無料で配布され、初期段階で5万人以上の家族から応募があり、最終的にはくじ引きのカタチでキットを配った。 

ネット上では、「戦争準備をしているではないか」という憶測があったのが、政府機関がこれは日常的な人防戦備対策と解釈する。 「人防戦備緊急キット」は「人民防空」機関の空襲・災害対策・減災ニーズに対応した資材を装備した携帯用バッグで、主に医療用救急キット、自助具、個人用保護具などの緊急自助具を装備しており、空襲や地震・火災・交通事故などの自然災害・緊急事態が発生した際の緊急自助に適していると言われる。 

緊急キットの中身とは、緊急ツールキット、N95マスク、ファイヤーブランケット、緊急脱出用ロープ、多機能緊急トーチ、長持ちするろうそく、防水マッチ、戦備医療キット、緊急用ホイッスル、滑り止めと着用可能な手袋、人防戦備緊急ハンドブックと戦備緊急連絡カード。 済南市の状況と同様に、中国の多く地域の「人民防空」機関が、「人防戦備緊急キット」の配布を「人民のための実用的なもの」プロジェクトの一つとして明確に挙げている。 

 南京市では、10年前から「人防戦備緊急キット」を配布している。今年、「人民防空」機関は引き続き53,500個の緊急キットを市内に配布しており、南京市の戸籍を持つすべての世帯は、緊急キットを受け取る機会がある。また、武漢市では「人防戦備緊急キット」の配布対象を中学生とし、1988年から中学生で市民防衛の知識教育を試験的に行っている。 

 地震大国である日本の防災グッズは主に地震対策になるもの。中身をみよう。ソーラー多機能ラジオライト、5年保存水、缶詰ソフトパン、食品加熱袋・加熱剤、ウェットボディタオル、非常用簡易トイレ、アルミブランケット、アルコール除菌ジェル、マルチツール、エアーまくら、アイマスク・耳栓、スリッパ、非常用給水袋、水のいらないシャンプー、緊急用呼子笛、レジャーシート、軍手、歯ブラシ、布ガムテープ、レインコート、カイロ、三角巾、乾電池、マスク、緊急時連絡シート、防災アドバイス、救急ポーチ・救急セットなど。 

比べてみたら、やはり日本の防災用品がもっと豊富である。特に、防災グッズの中、保存食と保存水が入られている。ただし、日本は中国のように基本的な防災用品を無料で国民に配ったらどうだろう。中国でも、これから防災ビジネスが発展していく必要がある。 

しかし、中国では、「防災」と「戦備」がからんでいることは、事情はややこしくなる。「人民防空」は中国独特な組織である。領土防空、野戦防空とともに国家防空システムを形成し、国防の重要な一翼を担っているらしい。 「人民防空」の主要な役割は、戦争の脅威から人々を守る。民衆のための戦備計画を策定する。防空のニーズと都市開発のレベルに応じて、防空プロジェクトの規模、レイアウト、戦術的、技術的な要件とそれに対応する実施仕様を策定すること。 防空プロジェクトの建設を組織する。  

(メルマガ黄文葦の日中楽話第62話より)

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