中国サッカーが強くなる日、中国が本当の大国になる日

                              黄 文葦

中国人にとって、メンツがすごく大事である。しかし、一つだけ、メンツに拘らない。それは中国サッカーのこと。外の人からどんなに中国サッカーが批判、揶揄されても、中国人が納得し、全然怒らないという。 中国人は自国のサッカーを話す時に最も謙虚だそうだ。むしろ自虐的な情緒があふれる。「中国のサッカーは何故そんなに下手なのか」、「14億人口なのに、何故一つ優秀なサッカーチームも作れないのか」、「中国サッカーは日本サッカーに学ぶべきだ」など、この類の国民的な議論が十数年、いいえ、二十数年も続けられてきた。これからもまだまだ長く続くかもしれない。 

自国のサッカーの負けに慣れている中国サッカーファンたちが、さらに大きな衝撃をうけた。2022年2月1日、ちょうど旧正月、カタールW杯アジア最終予選で、中国はベトナムに1―3で敗れ、本大会出場の道が閉ざされた。これまで一度もベトナムに負けたことがなかった中国であった。 春節の初日に、歴史的敗戦を食らったとあって各中国メディアとネットユーザーは「メンツまる潰れ」「歴史的恥辱」と猛批判だ。 

 実は当方は昔からサッカーファンだ。中国サッカーがなかなか進歩してないので、だんだんがっかりして、中国サッカーを観なくなって…日本サッカーを見るようになった。改めて、「14億人口なのに、何故一つ優秀なサッカーチームも作れないのか」を考えてみよう。人と制度の両方に原因がある。 

まず、中国人の性格から言えば、サッカーのような頗る集団戦略が求められるスポーツがあまり得意ではないはず。卓球のような個人の力で巧みにコントロールできるスポーツが得意であるわけだ。中国社会には個人の卓越性が評価されている。 

もう一つ、やはり国の体制とサッカーの体制に問題があると思われる。近年、中国のサッカーチームがヨーロッパの優秀な監督を招き、人材育成や戦術戦略指導に力を入れているらしい。しかし、一方、中国サッカー協会の腐敗問題も深刻で、中長期のサッカー人材の育成体制にも構築に欠けている。アジアトップレベルましてや世界強豪になる日はまだまだ遠い。中国サッカーには、お金持ちになったが、なかなか強くなれない。 

 最大の欠点は、スポーツを政府が一元的に管理していること。中国の市場経済が盛んでいる現在、サッカーなどのスポーツは依然として政府によって管理されており、サッカーも中国経済と同様に、体育委員会とサッカー協会が権力と金の両方を持つ二重システムになっており、腐敗の温床となっている。 

 過去数十年間、中国政府はスポーツ界のエリートを育成し、資金、トレーニング環境などを提供し、主にオリンピックで金メダルを獲得し、共産党政治体制の勝利と成功をアピールする。この方針は、サッカーの発展に影を落としている。サッカークラブは当局によって管理されており、その結果、地域の独立したサッカークラブは発展できない。 

 中国政府は、このような小さなサッカークラブが都市で何千と生まれ、「ボトムアップ」の社会運動として広がり、政府の支配に挑戦することを恐れているかもしれない。サッカークラブは、都市と農村の家族や隣人を集め、政府や体育委員会の官僚よりも、クラブに対して忠実になる可能性があるからである。 

 中国のサッカーが強くなれないもう一つの理由は、一般的に中国の親はスポーツを重視せず、子供に勉強をしっかりさせたいと考えているからだ。週6日学校と塾に通い、朝6時に起床し、夜10時まで勉強する子供が大勢いる。子供がサッカーを好きになっても、サッカーをする余裕がない。 

 サッカーと民主主義の関連性は、中国サッカーの課題であるかも知れない。現在中国では、サッカーをする人、支える人の視野の広がりが無く、個人的に優れた選手がたまたま集まったとしても、それを継続して積み上げていく基盤がなさそうだ。サッカーという競技は民主的な自立した社会の存在が強いチームを生む大きな要素であるかも知れない。トップアスリートの育成と強化だけを考える中国的なスポーツの取り組みでは、サッカーのような「チームとしての熟成」が求められる競技で成功することは難しい。 

60ー70年代まで日本サッカーもインドや香港やベトナムに負けていた。70年代から小学生・少年のサッカー普及に力を入れ、サッカーの視野を拡げる努力を続けてきた結果、継続的に強いチームが組めるようになった。 

 サッカーについて、中国は日本に学ぶべきだと思う。とりあえず、しっかり、サッカーの基礎を築いてほしい。中国サッカーが民主化の先頭に立つことを期待せざるを得ない。中国サッカーが強くなる日、中国が本当の大国になる日であるかもしれない。その日は、いつ来るだろうか。 

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍