天津の足取りが遅くなってよかった



黄 文葦
 

10月下旬、日本語NAT-TEST中国運営局が主催する大学生・高校生の日本語スピーチコンテストの審査員を務めるため、私が天津へ行った。ちなみに、「西安で中国の五千年の歴史を見る。北京で中国の千年の歴史を見る。天津で中国の百年の歴史を見る」という説があり、私は天津の旅で、百年の歴史が見られるということを実感した。


今回、天津の「五大道」にある「和平鬢館」というホテルに泊まっていた。五大道とは馬場道、睦南道、大理道、重慶道、常徳道の5つの通りの総称で、租界の町並み残るエリアである。百年前の建物だが、車庫がつけられている。1860年に天津英租界が設置されてから五大道が英租界に組み込まれた。1911年辛亥革命後には、清朝の皇族親族らが、北京から天津の租界に移住した。また、多くの富豪や著名人、北洋政府役人も天津に滞在したことがあった。日本語スピーチコンテストは天津外国語大学の馬場道キャンパスで開催され、大学構内にも歴史感覚あふれる建物ばかりであった。建物が古風かつ質朴優雅で、塀の上に花と緑の葉が伸ばす。あたかも、「歴史」と「現在」が塀の上に結ばれるようであった。


天津の中、小さな「イタリア」と小さな「オーストリア」がある。どういうことかというと、「意式風情区」と「奥式風情街」というイタリアとオーストリアをモチーフにしたエリアが天津旅行のスポットになっているのだ。夜になると、百年前の建物がお洒落なバーとレストランに変身する。植民地時代の建築が都市の文化遺産になった。


さらに感心したことは、天津が伝統文化を大事にしているということだ。夜になると、「茶館」というところで、中国の伝統的な話芸の一つである「相声」が演出される。話術や芸で客を笑わせる芸能で、日本の漫才のような寄席演芸である。私は天津で初めて生で「相声」を観賞した。そこでちょっと意外だなと思ったことは、相声の芸人と観客には若者が多いということだ。インターネットとAI時代にも、天津では「相声」という伝統文化が相変わらず大事にされている。天津の人々が幼い頃から「相声」に親しみを持っているという。


ある日、タクシーに乗った際、天津の運転士さんが自慢げに天津の特徴を語ってくれた。「天津の生活リズムが北京、上海より遅い。それでもいい。不動産価格は北京、上海よりかなり安い。だから、天津に住めてよかった。」運転士さんの故郷愛が溢れると感じた。日本で、よく中国の不動産価格が日本より高いと聞く。実際にそうでもないのではないでしょうか。不動産価格が高騰しているのは北京、上海のような有数の大都市に限られている。


今回日本語スピーチコンテストの審査員という仕事を通して、ある程度現在中国の若者の日本に対する意識がわかった。中国各地から選ばれた15名の大学生・高校生が流暢な日本語を披露してくれた。日本に行ったこともないのに、日本語がとても上手なことに感心した。内容も個性豊かで、共通点は日本文化に興味を抱いているということである。


ある女の子がスピーチの中で、「高校時代から、ずっと日本のスーパースター亀梨和也のことが大好きです」と語ってくれた。そして、彼女が日本と日本語に興味を抱くようになった。夢は日本で介護知識を勉強し、日本で立派な看護師になることだそうだ。
ある男の子は日本のゲームが大好きで、将来の夢はゲームデザイナーになることだという。「以前、心が病んでいた時期があって、部屋に引きこもって不登校になった。その時、「東方紅魔郷」というゲームをして、とにかく強くなることを考えていたら、いつの間にか自信を取り戻せるようになった。それからは勉強にも励み、今は日本語の勉強が毎日楽しくて仕方ありません!」という。実は、大勢の中国の少年が日本好きのきっかけはゲームである。


日本語スピーチコンテストの現場で、天津の大学で日本語を教える三人の日本人先生と出会った。「中国での暮らし、何か不便なところがありますか」私が先生たちに聞くと、「中国での暮らしはとても快適です。不便なことがありません。私達がよく淘宝網(タオバオワン)で買い物します。」と先生たちが微笑みながら答えてくれた。


中国で暮らしている日本人は私より中国のことが詳しそうで、中国で道路を渡る注意点まで教えてくださった。日本で暮らしている中国人と中国で暮らしている日本人、相手国のことを愛しているだろう。


近年中国経済の発展スピードが凄まじいとよく言われているが、今回、天津に行ってみたら、人々が昔のまま、のんびりしたリズムで暮らしているように見えた。中国でも、都市の性格が違っている。ゆっくり前に進んで、伝統文化を大事にして、人々がゆったり暮らしを楽しんで、それも中国社会の実相である。天津の足取りが遅くなってよかったと言いたい。三日間短い旅であったが、天津の「歴史」と「現在」が心の中でつながった。

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍