だって、先生に怒られるから。

私は、聴覚障害のある子どもたちが通う学校で、教員をしている。
耳に補聴器をかけて、手話と音声を交えて、普通の子どもたちと同じように、勉強をしている。


先日、クラスの子どもが『家に補聴器を忘れました!』と、報告をしてきた。
補聴器は、聞こえない子どもたちにとって、少しでも音が聞こえるように、音を補うものだ。
そんな大切なものだが、うっかり忘れることもあるだろうと、『明日は必ず補聴器してね』と本人には伝えた。

しかし…その夜、お母さんから電話が。
実は『息子が学校で、補聴器をなくしたっていうんです!』と。
学校を大捜索してみたが、一向に見つからず。

補聴器は、両耳で何十万もする高い機械だ。
なくしたら、また何十万円もかけて、新しいものを買わなくてはいけない。
かるく1ヶ月の給料は吹っ飛ぶはず。

次の日の朝、本人を呼び出した。
『学校でなくしたって聞いたけど、昨日は家に忘れたって、話してたよね?どうゆうことか、話してくれる?』と、聞いてみた。
すると、『昨日は嘘をついた。本当は朝、学校に来た時、玄関でないことに気づいていた。でもなくしたって言うと、先生に怒られるから。』と、大号泣。
『そのせいで、昨日学校でも、家でも大捜索したんだよ。朝、正直に話してくれたら、すぐに見つかったかもしれないんだよ?今、ごまかしたことで、余計に怒られてるんだよ?』と、伝えてた。
すると、もっと泣き始めた。


今でも、その大切な補聴器は見つかっていない。


子どもたちは、自分の都合の悪いことは、ごまかすしウソもつく。
では、大人は?
大人だって、自分の都合の悪いことはごまかすし、知らないふりをするじゃないか。
正直な気持ちで素直に過ごしてくれたら、いいのに。
でも、そんな単純じゃないのが、人間である。

一号館一○一教室

とある大学の学生記者・カメラマンOB・OGによる先駆的Webマガジン     カバー写真:石川龍