マーシャル・ブレイン著『人類滅亡の科学』
2032年12月22日、
小惑星が衝突する可能性が
654時限目◎本
堀間ロクなな
ついに来たか! と、わたしはそのニュースに接して思わず声を洩らした。昨年(2024年)12月に南米チリの望遠鏡が発見した小惑星「2024YR4」について、先般、欧州宇宙機関(ESA)は2032年12月22日に2.2%の確率で地球に衝突すると発表したのだ。過去にも小惑星の接近をめぐる報道はあったけれど、これほどの衝突確率が示されたのは未曾有のことではないか。
この2.2%という数値の評価に関しては見解が分かれようが、少なくともわたしは50回のフライトにつき1回以上墜落する飛行機にはとうてい乗る気がしない。とはいえ、飛行機ならそれで済むとしても、母なる地球から飛び降りて逃げだすわけにはいかない以上、ここはなけなしの勇気を振り絞って事態を受け止める必要があるのだろう。そこで、マーシャル・ブレイン著『人類滅亡の科学』(2020年)を開いてみる。
本書は、われわれが見舞われる可能性のあるカタストロフィを25の項目に分類し、最新の知見にもとづいて「滅びのシナリオ」「科学的な根拠」「回避する方法」をレポートした、いわば人類滅亡の危機と対策をめぐるエンサイクロペディアだ。果たして、12番目には「小惑星の衝突」が取り上げられており、その「滅びのシナリオ」にはつぎのような文章を見出せる。竹花秀春訳。
大型小惑星の衝突は、地球とそこに生きるすべてにとって最悪のシナリオとなる。〔中略〕衝突によって放出される膨大なエネルギーは巨大な火球を作り、その熱によって森林や建造物が燃える。衝突は大きな衝撃を生み、地震波、地震、火山噴火の引き金となる。〔中略〕一定以上の大きさの小惑星が地球に衝突すると、これらの影響がすべて複合的に作用し、地球上の生きとし生けるもののほぼすべてが死滅するほど壊滅的な被害が出る。衝突直後に起こる爆風、火災、津波などに巻き込まれて死ぬものもあれば、衝突後しばらくして地球全体に訪れる厳しい寒冷化によって滅ぶものもあるだろう。大型小惑星の衝突直後に起こる破局的な被害を生き延びたとしても、残念ながら、それで最悪の事態を免れたわけではないのだ。そうした衝突直後の被害が及ばなかった地域が受ける長期的な影響のほうが、実はもっと恐ろしい。想像を絶する量のすず、煙、岩石、水、塵、硫黄が衝突によって空へ舞い上がり、大気を濁らせ、何年にもわたって太陽を遮ることになる。太陽の光が地表に届かないため、植物は枯れ、海のプランクトンも死滅し、地球上の気温は著しく低下し、食物連鎖全体が崩壊することになる。
まさに地獄図と呼ぶべき光景だが、幸いにも、アメリカ航空宇宙局(NASA)によればこの小惑星「2024YR4」は直径が推定40~90mで地球全体を破滅に追いやるほどの大きさではないらしい。それでも、たとえば東京23区をいっぺんに吹き飛ばすくらいの、小型核爆弾に匹敵する威力はあるそうだから、今後さらに緻密な観測を重ねつつ、地球との衝突が生じない措置も講じられていくのではないか。本書の「回避する方法」はこんなふうに述べる。
最も重要だが困難な役目は、脅威となる地球近傍天体(NEO)が地球に衝突する可能性を排除することだ。理論上さまざまな方法が考えられるが、そのほとんどは小惑星の軌道をある程度変えてニアミスで済ませようとするものだ。〔中略〕小惑星の軌道を変える方法の1つとして、地球に衝突するかなり前に小惑星へ核兵器を撃ち込むというものがある。核兵器のとてつもない爆風とその際に放出される物質によって、小惑星のコースはごくわずか変化する。また、キネティック・インパクター(運動エネルギーを叩きつける物体)を小惑星にぶつけるのも現実的な方法だ。キネティック・インパクターに使えるものとして重い衛星がある。これを高速に加速して、小惑星に衝突させればよい。
すでに報道されているとおり、2022年にNASAはここに描かれたような無人探査機を小惑星にぶつけて軌道を変える実験に成功した。したがって、いまや小惑星の脅威を取り除くことも決して夢物語ではなさそうだ。ただし、人類全体の命運を左右するプロジェクトなのだから、世界が一致結束して取り組むべきだろう。この期におよんで、地球上のあちらこちらで戦争や紛争にウツツを抜かしている場合ではあるまい。
Xデイまで7年あまり。ことによると、小惑星「2024YR4」は人類に教訓を与えるための宇宙からの使者かもしれない、とわたしには思えるのである。
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